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企業との対話から見えたLGBT就職事情

2017/06/22

Working Rainbow EXPO 会場レポート

Kengo Higashi - Media for Society 副編集長 Profile
コピーライター、ライター@名古屋

LGBT、企業、アライが”自分らしく働く”ことについて考えるイベント「Working Rainbow EXPO」が、6月10日に名古屋国際センター 別棟ホールで開催された。

主催は「on the Ground Project」。性的少数者がいきいきと働ける職場づくりをめざして、研修、講演、コンサルティング活動などを行っている団体だ。この日は、LGBTやダイバーシティ関連の取り組みをしている企業(+推進したいと思っている企業)と、LGBT・アライの学生や社会人が参加した。

※LGBTとは:レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)、トランスジェンダー(T)などの性的少数者の総称の一つ
※アライとは:LGBTの当事者ではない人が、LGBTをはじめとする性的マイノリティを理解して支援するという考え方。また、そうした立場を明確にしている人々のこと

まずは主催者の市川さんが挨拶。今回のイベントの背景・趣旨を説明した後、さっそく第1のプログラム「パネルディスカッション」が行われた。

 

企業・NPO側から見たLGBTへの理解【パネルディスカッション1】

最初に登場したのは、大橋運輸会社の代表取締役・鍋嶋さんと、NPO法人G-netの代表理事・南田さん。ファシリテーターは市川さんが務めた。

大橋運輸は約10年前からES(=従業員満足)向上活動を行なっており、これまで女性、外国人、障害者、高齢者が働きやすい職場環境の整備に努めてきた。G-netは岐阜を拠点に活動しているNPO法人。“岐阜を日本で最もチャレンジにやさしいまちにしたい”という想いのもと、起業家育成や中小企業の支援などを行っている。

市川さんによると、両者は早い段階からLGBT関連の取り組みを進めてきたそうだ。鍋島さんはLGBTの方との関わりについて「昔から面接に来ていただくことはありました。実際に入社して、いま現役で活躍している方もいらっしゃいます」と語る。昔から大橋運輸の採用エントリーシートには性別の記入欄がない。その理由については「仕事をする上では、一人ひとりの個性や強みをいかに発揮するかが大切。性別を聞こうとする発想はそもそもありません」と答えた。

“LGBTの取り組みは大手がやることでは?”という認識についての質問は、南田さんが回答。「安心して仕事できる環境は地域でつくることが大切です。できることをすぐに行えるという点では、大手ではなく地域に近いところがやるべきだと思っています」。さらに、LGBTへの世代別理解についてこう言及した。「LGBTを知っている、知っていないということで言えば、大人と若者で差があるような感じがします。若い人の方が気にしていないし、すごく相手のことを大事にしている。残念ですが、上の世代になればなるほど分かっていない人が多いという印象を持ってしまいます」。

また、話題はダイバーシティの方面にも及んだ。「物流というと男性のイメージですが、いまは違います。安全衛生、健康管理、衛生面という部分で、女性の目を入れていくことを大切にしています。そうやってダイバーシティを考えながら様々な障壁を取り除く中で、LGBTのことを知りました。ですが、採用に関してハードルがあるようにはまったく感じらません。逆に何がありますか?と問いたい」と鍋島さんは話す。いまだLGBT・ダイバーシティの取り組みを行っていない企業については、「これからどんどん人口が減っていく中で、多様性を受け入れられないというのは、よほど特色がないと無理ですよね」と語った。

 

現役職員が語るLGBTの就活事情【パネルディスカッション2】

続いて、三重県津市の介護老人保健施設「いこいの森」介護長の間渕さんと、職員の藤田さんが登壇。ファシリテーターは一般社団法人ELLYの山口さん。いこいの森はさまざまなリハビリ・介護サービスを提供し、利用者の早期の在宅復帰を目指している施設だ。

左から山口さん、間渕さん、藤田さん

 

藤田さんはトランスジェンダー。現在、戸籍上は女性だが、今後は変更して男性となる予定だ。まずは山口さんから藤田さんへ、採用の経緯について質問があった。「いこいの森を知ったのは、津市のハローワークで聞いたのがきっかけです。それで、たまたま働いている人に会って詳しく聞いたら”いいじゃん”と思って。まずは施設見学させてもらいました。ただ、不安要素はかなりありましたね。カミングアウトして受け入れられなかったらどうしようって。でも仕事しないと食えないですし」。

間渕さんはそんな不安を抱えた藤田さんに初めて会う際、あらかじめ事情を耳にしたからか、少し身構えてしまったという。しかし「実際に会ったらまったく違和感がなかったですね。仕事できないのかな?ということもない。問題なくやっていけそうだなと思いました」。藤田さんは「いざ働いてみると、あったかい職場だなあと。職員も利用者の方も、のびのびした時間を過ごせるのが印象的です。やりがいのある仕事だと思う」と話す。それに対して間渕さんは「介護は人が相手の仕事です。好きじゃないとできないし、適性がある。彼は利用者とちゃんと話ができるから安心しています」と、仕事との相性の良さについても一言添えた。

多くの人が気になる話題、履歴書の性別欄については「丸をつけませんでした。あえてふらなかったですね」と語る藤田さん。それを見た間渕さんの反応は「あまり違和感はありませんでした」とのこと。なお現在、藤田さんがトランスジェンダーであることは、すべての職員が知っているわけではないそうだ。「口コミで知っている人もいれば、知らない人もいます。カミングアウトに関しては聞かれたら答えますね。若い頃は嫌だったけど、いまはぜんぜんそう思わない」と藤田さんは話す。

「今後の不安要素は?」という山口さんの質問に対しては、「現状は全くありません」と首を振る藤田さん。「ただ、入る前はたくさんありましたけど。変に知識がなくて、病気と思われたらどうしようという不安はありましたね。知らない人がどう思っているかわからないから」と話した。

藤田さんが入社してから、いこいの森ではLGBTについて学ぶ研修会を開催するようになった。「藤田君が入社してトランスジェンダーのことを知ったら、これはやらなければ、と。彼自身のことを聞くのも大事だけど、LGBTを知識としてみんなに知ってもらうことも大切だと思いました。知らず知らずのうちに傷つけないためにも」。藤田さんは「ありがたかったですね。変に誤解されるよりも、正しく理解してもらうほうがいい。研修後も反応は特にありませんでした。いつもと変わらないです」と続けた。

最後に山口さんから「会社としてこういう風になっていけばいいな、というイメージはありますか?」との質問。間渕さんは「介護は慢性的な人手不足です。海外の方、例えばベトナムの方に来てもらう話も出ています。そうした外国人の方を含め、多様化する人材に対応できる職場にしていけたらいいなと思います」と答えた。藤田さんはこれからの働き方について「利用者の方にありがとう、と言われるような仕事をしていこうと思っています」と、晴れやかな様子で語った。

 

マルイグループの取り組みを紹介【特別講演】

パネルディスカッションが拍手のうちに終わると、続いて株式会社 丸井グループ サステナビリティ部の井上さんが登場した。「年齢・性別・身体的特徴を超えた”すべてのお客さま”が、インクルードされ”しあわせ”を感じられる豊かな社会」を目指すマルイグループの、LGBTに関する取り組みが紹介された。

「マルイは1年くらい前から取り組みを行っていますが、まだ制度には手をつけられていません。まずは社内の中で風土をつくっていこうとしている段階です」と話す井上さん。そもそもなぜLGBTに関する取り組みを行おうと思ったかというと、「日本が100人の村だったら…と考えたときに、LGBTの方は8人いたんです。そのときに、私たちはこれまでLGBTの方々にしっかり向き合っていなかったのでは?という反省が生まれました」。

これからの豊かな社会のためには、すべての人が幸せを感じられるようにならなければいけない、という思いのもと活動しているマルイグループ。「誰かが楽しくて、でも、誰かが楽しくないのはいけない。みんなが参加してみんなが楽しいのが、これからはカッコイイこととされていくと思います」。例えばファッションの分野においては、さまざまな身体的特徴への配慮を行なっており、女性シューズはすべての方が履けるように19.5~27cmまでの幅広いサイズを揃えている。

LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティへの理解を深めるイベント「TOKYO RAINBOW PRIDE」では、大きなレインボーフラッグを掲げた。「実はあれはすごく議論が巻き起こったんですよ。でも社長が”いまやらないと2020年に間に合わない”と決断したんです」と話す井上さん。かの大々的な写真でマルイグループのLGBTへの理解を知った人も多いはずだ。

現在は写真展やバッジ販売など、幅広い活動を行なっている。「もちろん企業だからビジネスにつなげていかないといけない。ビジネスコンテンツ、ホスピタリティ、課題解決、企業成長…これらをつなげられないか?という思いでやっています」。これまでの活動を振り返って印象的だったのは「27cmの女性シューズをトランスジェンダーの方に使っていただいていたこと」。また、あるイベントでは「今日初めてセクシャリティを公開できて嬉しかった。たくさん話せてよかった。また一つ私の夢が叶った」と、お客様からメッセージをいただいたことが記憶に残っているそうだ。「自分の仕事で人の夢を叶えられるんだ、と社員が気づいた。おのずとやる気も出ますよね」。最後に「いろいろなNPO、メディアなどと研究しながら、これからも活動していきたい」と抱負を口にして、講演の時間が終わった。

 

企業と参加者が輪になって語る【ブース出展企業×参加者】

次に、この日ブースに出展している企業の取り組みが紹介された。今回出展した企業・NPOは以下。

・大橋運輸株式会社
・早川工業 株式会社
・株式会社伊藤美藝社製版所 株式会社アイビーネット
・有限会社プレジャー企画
・NPO法人G-net
・株式会社ブルーボックス

その後、いくつかのグループに分かれて企業・NPO×参加者の交流タイムが始まった。前半の真剣な空気と打って変わって、場内は活気の良い雰囲気に様変わりした。

各グループの様子は実にさまざまだった。矢継ぎ早に質問を繰り出す方や、身を乗り出して話を聞く方、一生懸命メモを取る方などなど。和気あいあいとした雰囲気の中、企業担当者と参加者が本音で向かい合う場面や、就活におけるリアルな問題を話し合う声も聞こえてきた。どのグループも企業担当者に率直な疑問をぶつけている印象で、やはり関心の高いことが伺えた。

交流タイムが終わり、内容盛りだくさんの全プログラムが終了。ついに閉会となった。会場に残った方々が和やかに談笑している中、市川さんが閉会の挨拶をした。

「1部、2部は真剣な空気で、そのあとは楽しそうにお話ししている姿が印象的でした。ぜひ来年も開催したいと思います。1年に1回はやっていきたいので、よろしくお願いします」と宣言。

ファシリテーターを務めた山口さんは、「自分らしく働けない経験があって、辛いことをけっこう言われたときもありました。今日の会場の様子を見ていて、今後LGBTフレンドリーな企業様が増えていったらいいなと感じました。もっともっと理解が広がっていったらいいなと思う」と話し、盛大な拍手の中でイベントを締めくくった。



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