“公正な取引”を肌で感じて楽しむ1日
「第8回フェアトレードデイ垂井」レポート
4月29日、岐阜県不破郡垂井町の相川児童公園で「第8回フェアトレードデイ垂井」が開催された。当日はフェアトレードや地産地消をテーマにした40店以上の店舗が出店、終日大きなにぎわいをみせていた。
会場近くの相川では垂井町の名物・鯉のぼりが大空を元気に泳いでいた。この日はフェアトレードデイ垂井を目当てに来場する方のほか、鯉のぼりの観光後に、また川遊びの帰りに立ち寄る方もチラホラ見えた。地元の方はもちろん、県外からも大勢の方が足を運んでいたそうだ。
たくさんのフェアトレード製品を実際に見て買うことができる…というのがイベントの大きな魅力だが、それだけではない。公園内に設置されたメインステージでのプログラムや、ワークショップなども盛況を集めた。
まいにちの買いものは
世界の問題とつながっている
今年3月にJIFH(日本国際飢餓対策機構)の事務所で開催されたワークショップ「どうなんだろう??わたしの消費行動」。その第2弾が公園内でおこなわれた。企画・運営は「Nたま」修了生の有志数名。Nたまとは、名古屋NGOセンターが主催する“NGOスタッフになりたい人のためのコミュニティカレッジ”のことである。
まずはフェアトレードのチョコと、そうでないチョコの違いを紹介するところからスタート。身近な商品をテーマに、製造過程のウラにある児童労働の問題や、大量消費の弊害などをわかりやすく説明していく。
ワークショップの中でも特におもしろかったのが、“買いものの基準”にまつわるQ&Aだ。例えば「バナナを買うときにあなたはなにを基準に選びますか?」というもの。人によって“安さ”だったり、“味”だったり、“安心・安全”だったり、あるいは“フェアトレード”だったりと、基準はさまざま。そしてその選択は、社会問題を助長させる可能性もあれば(例:安さ→大量消費→児童労働 ※一概には言えないが)、社会を良い方向に動かす可能性もある。
「買いものは自分の意思表示だと思っていますが、もしかしたらその選択によって、知らず知らずのうちにだれかを傷つけているかもしれない…と不安になるときがあります。日々の選択に気を使い、考えることで、より良い社会がつくられていくと思います」。最後に話した主催者の言葉に深く頷いた。
日本とガーナをつなぐ
アフリカ工房のものがたり
メインステージでは、シアバター専門店「アフリカ工房」の前田大蔵さんが登壇。聞き手に認定NPO法人テラ・ルネッサンスの広報、藤森みな美さんを迎え、自身の経歴やシアバターの生産地であるガーナについて話した。
シアバターとは、シアの木(シアバターノキ)の実の種から採れる天然の植物油脂のこと。ガーナでは1000年以上も前から保湿クリームとして使用されている。赤ちゃんのへその緒のお手入れや、傷や火傷のお手入れ、また食用の油としても愛用されており、その用途は幅広い。「アフリカ工房」はガーナ・ズオ村のシアバター生産者から直に購入、日本で販売している。立ち上げて9年になるが、取り組みを始めるようになった理由のひとつに、前田さんが青年海外協力隊としてベトナムへ行ったときの経験があるという。
「ベトナムへ行こうと思ったきっかけは、写真家の長倉洋海さんが撮った写真でした。それまでベトナムをはじめとする発展途上国の人々のイメージは”助けてあげなきゃいけない人たち”でしたが、その写真には弾けるような笑顔を見せる人たちがたくさんいて。印象が変わりました」。ベトバムに興味のわいた前田さんが現地に足を運ぶと、やはりそこにはエネルギッシュに生きる人々がたくさんいた。しかしそれと同時に、否応なしに目に入ってくるものがあった。「ふつうに過ごしていても、愛情に飢えた人や、ストリートチルドレンを多く見かけるんですね。そのときに“かわいそう”という感情よりかは、興味を惹かれたんです。“彼らはどういう目で世界を見ているんだろう”と」。
そんな気持ちを抱きつつ、その後はバスケットボールのコーチとしてガーナに赴任。そしてズオ村の問題を解決しようとしていた妻(アフリカ工房の代表・前田眞澄さん)とともに事業を立ち上げた。「最初はアフリカのことを日本に伝えたい、そして貧しい現地に利益を還元したい、という気持ちではじめました。いまは特にアトピーや肌荒れなどに悩んでいる人たちから好評をいただけています。フェアトレードであること=社会貢献につながっていることの喜びももちろんあるんですが、製品そのものに対して良い反応がいただけるのも嬉しいですね」。
トークの終盤、前田さんが語ったガーナでのエピソードは強く印象に残った。「ガーナでは昔、人身売買や奴隷の問題があったので、現地の方々は外国人が自分たちにどう接するかを細かく見るそうなんです。僕はアジア人としての振る舞い方を見られました。結局、僕がどの年代にも同じ接し方をしているのが好意的に捉えられたみたいで、信用を得ることができました。あとで聞いて驚きましたけど。でも、そのときに言われた“肌の色が違っても血の色は同じ”という言葉は、いまもずっと胸に残っていますね」。
フェアトレード実践者が語る
SDGsのこと
前田さんのお話の次におこなわれたのは、フェアトレードと“SDGs”の関わりを考えるトークイベント。SDGsとは、世界の問題を解決して持続可能な社会をつくるため、世界各国が合意した17の目標と169のターゲットのこと。貧困問題や環境問題、ジェンダー、街づくりなど、世界全体で取り組むべきビジョンが示されている。
今回のトークイベントでは、フェアトレードと関わりの深い方々が登壇。フェアトレードとSDGsのつながりについて意見を交わした。
<登壇者>
・原田さとみさん(NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク)
・池宮聖実さん(かご屋 moily)
・田口寿子さん(麻処さあさ)
・廣瀬徳経さん(春日養蜂場)
・関澤春佳さん(SDGs市民社会ネットワーク)
・神田浩史さん(NPO法人泉京・垂井)
・中川満也さん(垂井町 町長)
さまざまなトークテーマの中でも、「自分の事業がSDGsにどう関わっているか?」という質問に対する登壇者の発言は興味深かった。例えばNPO法人フェアトレード名古屋ネットワークの原田さんが「17の目標すべてにつながります」とコメントすれば、垂井町の養蜂家・タグチさんは「雇用創出を目標の一つに置いているので『目標8:働きがいも 経済成長も』が当てはまるかな」と話す。登壇者の事業内容によって当てはまる目標も変わる。ただ、ファシリテーター・神田さんの言葉を借りれば「どの事業もうまく社会を回転させていく可能性を秘めている」。フェアトレード、また地産地消などもそうだろうが、それらは社会問題の解決へとつながっていることがよくわかった。
左から、池宮聖実さん(かご屋 moily)、廣瀬徳経さん(春日養蜂場)、・神田浩史さん(NPO法人泉京・垂井)
垂井町の町長・中川さんは「SDGsを意識したまちづくりをおこなっていきたい」と決意を述べた後、こう語った。「今後人口の減少が予想される中で、人々は量の豊かさではなく質の豊かさを追い求めていく。フェアトレードやSDGsはその変化につながる動きだと思います」。“公正な取引”という概念や、持続可能な社会づくりを目指す姿勢は、時代の潮流から見ても必ず重要なことになる。いまはまだ局所的に発生している流れかもしれないが、この先こうしたフェアトレード系のイベントも、もっと広がっていくのだろうと思った。
大盛況!ビンゴクイズで
フェアトレードを楽しく学ぶ
メインステージの最後のプログラムは「ビンゴクイズ」だ。開始時刻になると、大勢の親子連れや子どもたちがステージ周辺に集まってきた。フェアトレード製品が景品でもらえるとのことで、毎年人気の企画なのだそうだ。
クイズのお題はやはりフェアトレードに関するものが多かった。「世界のすべてのバナナ農家のうち、フェアトレード農家の割合は何%?(ちなみに正解は1%)」や、「フェアトレード製品の購入額が世界で一番高い国は?(ちなみに正解はアイルランド※2011年データ参考)」などが出題されていく。正解が発表されるたびに参加者は大盛り上がりだ。少し難しい社会問題のトピックも、クイズにすればスッと頭に入ってくる。こうやって子どもの頃からフェアトレードについて楽しく学べるのは、とても良い機会だと感じた。
以上をもってイベントは終了した。フェアトレードデイ垂井・実行委員会の河合さんは「今日だけでなく、ぜひ日常の中にフェアトレード製品を取り入れていってほしいです」と話してくれたが、まさしくその通りだと思った。一人ひとりの毎日の行動が変われば社会は確実に良くなっていく。その可能性の大きさに改めて気づかされた1日だった。
フェアトレード製品を扱うお店はまだ少ないかもしれないが、読者の方も、もし身の周りにそういったお店があればぜひ一度足を運んでほしい。“買いもの”というもっとも身近な手段で、気軽に社会貢献することができるはずだ。小さなアクションかもしれないが、それはきっと、より良い社会をつくるための第一歩になる。
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第8回フェアトレードデイ垂井
- 開催日
- 2018年4月29日 (日)
- 時間
- 10:00〜16:00
- 会場
- 垂井町内 相川児童公園及び相川河川敷
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